甲子園決勝戦で三重高校を4対3で下し3917校の頂点に立った大阪桐蔭高校
春夏を連覇した2012年以来、2年ぶり4度目の優勝を果たしました
1998年から16年にわたり、チームを率いるのは西谷浩一監督44歳
高校野球の監督としては、これで歴代3位の優勝回数となりました
そんな日本を代表する西谷監督が語った「伸びる人の条件」と「指導者の資格」とは
対談のお相手は、千葉県の習志野高校、流通経済大柏付属高校の両校を
4回もの全国制覇へと導いたサッカー界の名将・本田裕一郎監督です

西谷 
私がここ最近変わったなと思うのは、メンバーから外れた子たちが
非常によくやってくれるチームになったということですね
10年ほど前までは夏のメンバー発表が終われば
そこから外れた子は寮を出るのが決まりだったんです
メンバーから外れて気持ちも少し切れているだろうから
彼らは家から通わせるようにしようと
ところが、私が監督になって3年目の時、
皆が寝静まってからキャプテンが相談に来たんです
「メンバー発表が終わっても、3年生全員を寮に残してほしい」と
私は内心凄く嬉しかったんですが、理由を尋ねると、
「監督はいつも一つのボールに皆が同じ思いになれ。
“一球同心”と言われているのにメンバー外の3年生が寮を出たらお互いに溝ができてしまう
一球同心が本物にならないと思います」と言ってくれたんですね

本田 
選手のほうからそう言ってこられたのですね

西谷 
夏のメンバー発表をする時には、
背番号をつけてやれなかった子たちがベンチ裏でワンワン泣いているんです
でも次の日には彼らのほうから
「チームのために何かやらせてほしい」と自ら言ってきてくれるようになった
そして打撃投手をしてくれたりするんですが、
私が一番してもらいたいのが相手チームの偵察なんですね
1、2年生より3年生のほうが野球をよく知っているから、絶対にいい分析ができる
ただ、メンバーから外れた3年生にそれを頼むのは非常に酷なことなんです

本田 
よく分かります

西谷 
その彼らが「偵察にも行きます」と自分から言ってくれるようになり、そこから何かが変わってきた
三年生の外れた仲間たちが撮りに行ったとなると、メンバーもいい加減には見られなくなる
そうしたことで、合宿所自体の雰囲気が変わってきました
だから試合に出ていない子の力がいかに大切か、
その子たちの力が関わってきた時に、
チームは本当の力を発揮するんだなと改めて感じましたね。

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本田 
指導者というのは皆、非常に負けず嫌いですよね
でも負けず嫌いの人は、往々にして諦めやすいという面がある
だけど本当の指導者は、その負けず嫌いが継続するんです
諦めなければ必ずチャンスが巡ってくると思っています
選手だって負けず嫌いな子のほうが成長しやすい
だけどもそういう子のほうが、かえって諦めてしまいやすいんです

西谷 
同感です
そういう子が変化した時に、凄いものになっていく本物になっていくんですがね
また、本当に伸びる子は概して素直で、なおかつ頑固さも備えていますね
人の話をちゃんと聞く耳を持っているが、自分というものもしっかり持っているというか

本田 
素直さという点では共通していますが、私自身は反骨精神のある奴が大好きなんですよ
よく、不貞腐れる子っていますよね
そういう子と話をして突っ込んでいくと、時には飛び掛かってくることもありますが、
そういう部分を崩してやった時には、これが本番で大活躍するんですよ
暴れ馬を調教した時には名馬になる(笑)

西谷 
ここ一番ではそういう子がやってくれますね

本田 
真面目な子は土壇場で萎縮したりするんです
いずれにせよ、ねじれた子も3年間でそのねじれを取ってやらないと、
社会では通用しませんからね
一方で、真面目な子にも真面目なだけじゃダメだよと教えてあげる
このへんが非常に難しいところです

西谷 
そうですね
それと、これは先生も同じでしょうが、
我われはやはり日本一になることを目標にしているので
「これで日本一になれるのか」という言葉を意図的に毎日毎日伝えていきました
ただ日本一は本気で狙いに行っても簡単には取れません
でも本気の本気で狙いに行ってこそ初めてチャンスが出てくると思っています
だから常にそれを意識してやりたいと思っています
たまたまで日本一になるなんてことはあり得ませんから
だからそこに近づくために自分がいま何をしないといけないか、ということですよね

本田 
えぇ
だからとにかく鍛える、日本一に向かって鍛えていく
私自身は厳しさと優しさというものは同一線上にあるものだと思うんです
どちらが先行するものでもなく、厳しさの中に本当の優しさが、優しさの中に本当の厳しさがある
叱るのと褒めるのも、苦しさと楽しさも一緒じゃないかと
選手にも3年間、いろんなドラマがあるじゃないですか
でも卒業する時に、彼らは苦しかった時のことを笑いながら喋るんです
つまり苦しいことの中にこそ、楽しさがあるんじゃないかと
そうした点で、指導者に求められるものの、第一には、やはり情熱ですね
次に負けず嫌いであること
そして最後は行動力です
歳を取ってくると、だんだん面倒臭さが先に立っちゃいますから、
そういうことがないようにと心掛けています
この世界、人間が相手ですから、そう簡単には極められないですよね
ここからもっともっと、深い境地があると思うし、
西谷先生にも負けないよう若さをもらわないと(笑)

西谷 
私はまだまだ未熟な指導者なので、子供たちの中にバッと入ってしまい、見えなくなることがよくあるんです
最初のうち、勝てなかった理由を自分なりに考えると、たぶん子供たちと一緒になって
戦っていたから見えなかったんだと、今になって思うんです
これまでは子供たちと一緒に突っ走ってやってきましたが、
最近は指導者として一つの岐路に来ているように感じています
単に野球だけを教えるのではなく、子供たちにその先の生き方を教えるため、
本田先生のようにいろいろな引き出しを持っている必要がある
子供たちを引っ張っていく立場であれば、
もっともっと自分が勉強しなくてはいけないし、
そういう根っこの部分をどれだけつくってやれるかが、
将に求められる資格ではないかと思います

(致知2012年7月号より)

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